そこには今日も心踊る音楽が鳴り響く。
街の名前は『テリトーリアル』。
音楽に乗って楽しいダンスを踊ることが好きなその街の人たちの踊りへの熱は歴史を追うごとに熱さを増し、今では政治とダンスが密接するまでになっていた。
周辺の国々からも“ダンス郷”と呼ばれるほどだったが、隣国から街を訪れた旅人はすぐに違和感を覚える。
街でダンスを楽しそうに踊っているのは男性ばかり。政治や経済の話をしながら踊るそのダンスは確かに楽しげではあるが、そこには女性が一人も見当たらない。
だが夜になると、昼間一人も見当たらなかった女性が続々と姿を見せる。夜の闇の中、街を静かに歩く女性はその時間から仕事を始めるようである。「女性らしく、おしとやかに」「夜更けに大声を出すような“はしたない”ことはしない」それらを意識しているらしい女性たちはとても静かだ。
華やかなダンスは男性たちのものとされ、女性は夜静かに労働するものとされたダンス郷。
そこで捲き起こる物語は、その街に突如として降りかかった“街が地図から消えるかもしれない危機”。
夜が更けた真夜中、女性たちが工場の機械音に紛れ込ませて静かにこっそりとダンスを踊るのを見た旅人は「どうしてそんなに素敵なダンスを隠れて踊るのか」と女性たちに問う。だが一方で、旅人が隣国から密かにやってきた者とわかると、街と女性たちの運命は動き始める。