小説家・阿墨恵一が、奇妙な踊り子の噂を聞いたのは2010年の6月であった。
『都内の寂れたストリップ小屋に、三日三晩続けて踊るストリッパーが居る。』
当時、スランプに苦しんでいた阿墨は話の種にと、このストリップ小屋を訪れる。踊り子は草薙初夏といった。不正を見破ろうとショーを見続ける阿墨の目の前で、草薙は一切休むことなく、三日三晩を踊り抜いてみせた。阿墨は目の前で行われた奇跡とも呼べる所業に打ちのめされ、終演後、草薙との接触を試みる。
恐るべき身体能力を持つ草薙であったが、その人となりは実に踊り子らしい奔放な性格の持ち主で、近づいてくる男を拒否しなかった。程なくして、阿墨は草薙と関係を持つようになる。寝物語に草薙の出自を聞いた阿墨は、驚愕した。草薙の祖母が住んでいたという埼玉県、天竺村。阿墨は子供の頃から、この村を知っていた。
阿墨が作家を志したのは、幼少期に祖父の日記を盗み見た時からだった。それは日記という名目であったが、書かれている内容はどれも信じ難いもので祖父の創作としか思えなかった。日記は1945年6月で終わっており、最後に走り書きで、『日記ノ一冊ヲ、天竺村ニテ紛失セリ。』と記してあった。阿墨は長年この日記の片割れを求め、いつか天竺村に訪れて祖父の日記を捜索しようと企てていた。日々に忙殺され、企てを実行することは出来ていなかったが、草薙との出会いにより、再び阿墨の日記に対する思いに火がつく。二人は、旅行がてら天竺村を訪ねることとなった。
埼玉県北西部、埼玉と群馬を隔てる濁酒山の谷間にある天竺村は、かつて実験用鼠の生産量、日本一を誇り、“鼠村”の別称で呼ばれた。この村に纏わる凄惨なる奇譚は、時を超え、現代に生きる阿墨と草薙の運命をも翻弄していく。